古き善きもの しなやかで新しいもの
もう一品おかずが欲しくて冷蔵庫をのぞいてみましたが、冷凍した油揚げくらいしかなかったので、それを刻んで千切り大根の煮物を作りました。濃いめのお出汁とみりんとお醤油で汁気がなくなるまで煮あげ、いただく時にちょこっと粉山椒。これだけでもぜんぜんおいしいんだなあ。たっぷり作ったはずなのにぺろりといただいてしまいました。
……あ、こんどこれをお丼にしてみよう。結果はこちらでご紹介しますね。
+++
この間、イタリアに食の取材に行ってきた方とお話する機会がありました。
そのなかで興味深かったのが、いまでも多くのイタリアの方が伝統的なイタリア料理に強いこだわりを持っているというお話です。イタリアには現代イタリア料理の基礎となった「厨房の科学と正しい食事法 ─ La scienza in cucina e l'arte di mangiar bene ─(ペッレグリーノ・アルトゥージ著)」という、たいへん立派な料理指南書があります。この本が出版されたのは1891年のことですが、イタリアではいまでも最も読まれている料理本であり、大抵の家庭で、または親子それぞれで一冊は持っていると言われています。(日本語版が出版されていないのがつくづく残念です)

ここまで確固としたバイブル本があることだけでも興味深いですが、さらに関心してしまうのは、イタリアではこのアルトゥージのレシピをいまでも忠実に守っている家庭が多いということです。たとえば、このレシピにはちょっとニンニクを足したら美味しいんじゃないかな? なんてアレンジをしてしまうことはまずありえません。材料も作り方もアルトゥージの指南書にある通り。それを守って料理をすることが、いまの一般家庭でも大切にされているというわけです。
イタリアといえば、さかのぼれば古代ローマ帝国時代から、あらゆる分野で斬新で革新的なものを生み出し、世界中に影響を与えてきたという歴史を持っています。現代イタリアにおいても、常に一歩先を行くモダンで洗練されたデザインや様式が、数多くの分野で発表されているのはみなさんもご存じの通りです。けれど同時に、イタリアは古き良きものを守るために多大な努力を怠らないという信条を持つ国でもあります。そのことは料理の分野においても同じだったのですね。古きものを決して手放さない意志の強さと、新しいもの(より洗練されたものといった方がいいでしょうか)への貪欲さ。このふたつをイタリアの方々がひとつの魂にしっかりと持ち得ている秘訣は何なのでしょう。
イタリアに暮らしたことがないわたしには、その秘訣を簡単には解明できそうにないですが、ただ、このふたつの意識を持っていることが、現代イタリア料理を未来にしっかりと受け継がれて行かれるだけの価値を持つ、すばらしく豊かなものに発展させたのではないでしょうか。
興味深い話に刺激されて、つれつれと考えているうちに、このあいだのレシピコンテストで集まったレシピのことを思いました。千切り大根は日本において伝統的な食材のひとつですが、その調理法や食べ方は、(比べるものではないかもしれませんけれど)イタリアのパスタ料理のようには多様化しているとはいえません。それなのにも関わらず、集まったレシピは、斬新なレシピであれ、既存の料理を上手に工夫したレシピであれ、どれもしなやかなアイデアにあふれていました。応募されたみなさんは、このようなしなやかさをどのように身につけられたのでしょうか。
ひとつひとつ目をこらすと、アイデアや工夫の影に、おぼろげながら応募された方々ひとりひとりの食の経験が見え隠れしていました。ささやかで個人的な伝統が、みなさんの応募されたレシピの中に確かに存在しているのが感じられました。
古き善きもの、そしてそこから連なったしなやかな新しいもの。伝統と可能性。
千切り大根の魅力のひみつはみなさんひとりひとりの中にあるのですね。そのことをあらためて実感させられました。
それは千切り大根手帖スタッフにはとても刺激的でしたし、千切り大根の可能性をみなさんからあらためて教えていただけたことに大きく感動してしまいました。千切り大根手帖も「古き善きものと、しなやかで新しいもの」、このふたつがちゃんと存在する手帖にしていかなければ。できることなら、みなさんひとりひとりのところにおじゃまして、料理の経験や千切り大根のことを直接訊ねてまわりたいくらいです。
重ね重ね、レシピのご応募をありがとうございました。
……あ、こんどこれをお丼にしてみよう。結果はこちらでご紹介しますね。
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この間、イタリアに食の取材に行ってきた方とお話する機会がありました。
そのなかで興味深かったのが、いまでも多くのイタリアの方が伝統的なイタリア料理に強いこだわりを持っているというお話です。イタリアには現代イタリア料理の基礎となった「厨房の科学と正しい食事法 ─ La scienza in cucina e l'arte di mangiar bene ─(ペッレグリーノ・アルトゥージ著)」という、たいへん立派な料理指南書があります。この本が出版されたのは1891年のことですが、イタリアではいまでも最も読まれている料理本であり、大抵の家庭で、または親子それぞれで一冊は持っていると言われています。(日本語版が出版されていないのがつくづく残念です)

ここまで確固としたバイブル本があることだけでも興味深いですが、さらに関心してしまうのは、イタリアではこのアルトゥージのレシピをいまでも忠実に守っている家庭が多いということです。たとえば、このレシピにはちょっとニンニクを足したら美味しいんじゃないかな? なんてアレンジをしてしまうことはまずありえません。材料も作り方もアルトゥージの指南書にある通り。それを守って料理をすることが、いまの一般家庭でも大切にされているというわけです。
イタリアといえば、さかのぼれば古代ローマ帝国時代から、あらゆる分野で斬新で革新的なものを生み出し、世界中に影響を与えてきたという歴史を持っています。現代イタリアにおいても、常に一歩先を行くモダンで洗練されたデザインや様式が、数多くの分野で発表されているのはみなさんもご存じの通りです。けれど同時に、イタリアは古き良きものを守るために多大な努力を怠らないという信条を持つ国でもあります。そのことは料理の分野においても同じだったのですね。古きものを決して手放さない意志の強さと、新しいもの(より洗練されたものといった方がいいでしょうか)への貪欲さ。このふたつをイタリアの方々がひとつの魂にしっかりと持ち得ている秘訣は何なのでしょう。
イタリアに暮らしたことがないわたしには、その秘訣を簡単には解明できそうにないですが、ただ、このふたつの意識を持っていることが、現代イタリア料理を未来にしっかりと受け継がれて行かれるだけの価値を持つ、すばらしく豊かなものに発展させたのではないでしょうか。
興味深い話に刺激されて、つれつれと考えているうちに、このあいだのレシピコンテストで集まったレシピのことを思いました。千切り大根は日本において伝統的な食材のひとつですが、その調理法や食べ方は、(比べるものではないかもしれませんけれど)イタリアのパスタ料理のようには多様化しているとはいえません。それなのにも関わらず、集まったレシピは、斬新なレシピであれ、既存の料理を上手に工夫したレシピであれ、どれもしなやかなアイデアにあふれていました。応募されたみなさんは、このようなしなやかさをどのように身につけられたのでしょうか。
ひとつひとつ目をこらすと、アイデアや工夫の影に、おぼろげながら応募された方々ひとりひとりの食の経験が見え隠れしていました。ささやかで個人的な伝統が、みなさんの応募されたレシピの中に確かに存在しているのが感じられました。
古き善きもの、そしてそこから連なったしなやかな新しいもの。伝統と可能性。
千切り大根の魅力のひみつはみなさんひとりひとりの中にあるのですね。そのことをあらためて実感させられました。
それは千切り大根手帖スタッフにはとても刺激的でしたし、千切り大根の可能性をみなさんからあらためて教えていただけたことに大きく感動してしまいました。千切り大根手帖も「古き善きものと、しなやかで新しいもの」、このふたつがちゃんと存在する手帖にしていかなければ。できることなら、みなさんひとりひとりのところにおじゃまして、料理の経験や千切り大根のことを直接訊ねてまわりたいくらいです。
重ね重ね、レシピのご応募をありがとうございました。






